86.【ネタバレ】進撃の巨人の結末にはどんなものがあり得たのかを考えている

進撃の巨人の結末について考えている。本編のネタバレを含むので、作品の楽しさを最大化したい人は読まずに戻っていただけたらと。


①物語の概要
 巨人の住む世界。三重の壁に囲まれた安全な町で主人公エレンは育つ。
 エレンが10才の頃、一番外側の壁が超大型巨人によって破壊される。エレンの母はエレンの目の前で巨人に食われ、命を落とす。
 五年後、巨人に立ち向かうための兵士となったエレンは初陣で命を落としかけ、そこで巨人化する力に目覚める。
 兵団の中で出会いと残酷な別れを繰り返しながら、巨人とは何か。世界はなぜこうなっているのかが明らかになっていく。


 物語の中盤、エレンの父親の残した手記により舞台設定が明らかになる。
 知能を感じさせず、無意味に人類を虐殺していた巨人は、自分たちが変化した姿であることを知る。自分達はとある条件下で巨人化する民族だったのだ。

 条件とは「巨人の王」の意思。

 主人公達が住む島の外には広い世界が広がっており、そこに人は住んでいるが、巨人化する民族である自分達を激しく憎んでいる。
 自分達壁の中の民族は、巨人の力を用いて壁の外で虐殺を繰り返して人類を支配したのち、争いに疲れたため壁を築いて壁の中で100年平和に暮らしていたのだった。父親はその『壁の中の平和』を望んだ巨人の王の力を奪った。力は今使用不可能な状況でエレンに継承されている、ということが明らかになる。
 一方、壁の外での文明は進み、資源獲得のために壁の島は侵略対象となっていた。五年前に超大型巨人が壁を破壊したのはその侵略の幕開けだったのだ。
(巨人化する一族は、壁の外にも取り残されており、そこでは隔離されたり奴隷として生活している。エレンなどの特殊な個体を除き、巨人化は自分の意思で行えず、巨人化すると元に戻らず、知性ある行動もできない。エレンの父親は『壁の中の平和』に一定理解を示していた。が、5年前の襲撃時、壁の中の王が滅びを受け入れようとすることを選んだため、王を殺害して力を奪っている)


『人類 対 巨人』の構図で始まった物語は
『巨人化する壁の中の民族 対 人類』の形で立場が反転しながらも継続していく。
 作中人物のセリフが非常に心に残る。
「私たちが巨人を、恐れ、憎み、どうかこの世から消えてなくなれと願ったのと同じように、世界中の人々が我々を人ではなく有害な化け物とみなした。その結果あの地獄が繰り返されるのだとしたら……我々が死滅するまでこの地獄は終わらない」


 島の外が一枚岩でないことを利用し、島の外の技術に触れるエレン達壁中民族。技術力の差、規模の差、そして壁中民族への憎悪を目の当たりにし、使用不可能な状態でエレンに継承されている力、「地ならし」の使用方法を探ることとなる。


「地ならし」の鍵を握るのはジーク。エレンの異母兄であり、巨人の王族の血すじの人物だ。
 ジークは壁の外で育った。
 収容区から出ることもできず、生まれながらに差別を受けて。
 両親は自分の民族の復権を狙い、ジークを革命のための工作員として育てた。
 ジークの言葉に耳を貸さず、革命の道具として育ててきた報いか、ジークは両親を壁の外の人類に密告する。かくしてジークの父、グリシャは島流しとなり巨人の住む島に流され、巨人になる力を得て壁の中に住むこととなった。そしてエレンが生まれ、超大型巨人が壁を壊し、壁の中の民族は壁の外の人々と敵対することになった。


この物語には巨人と人類に関して、複数の最終計画案があった。
それについて以下に列挙する。


ジークの計画
 巨人の王の力を使い、壁の中の民族にこどもができないようにする。それによって緩やかに壁の中の民族は絶滅し、巨人と人類の問題は解決される。

 


②壁の王の計画
 壁の外の世界に干渉しないことを約束し、巨人化できる民族は壁の中で暮らす。壁の外の世界の文明が進歩し、戦争となったら抵抗せず滅びを受け入れる。

 


③エレンの計画(あえてこう書きます)
 巨人の王の力を使い、巨大な巨人の群れで壁の島以外の全てを踏み潰す。島の民族を憎む人々が絶滅することで問題を解決する。

 


④実際の物語の結末
 エレンの計画が進行し、世界の8割が踏み潰された。島の裏切り者がエレンを殺害して計画を阻止した。島に残された民族と、島の外でわずかに生き残った人類の間にわだかまりは消えない。しかし、計画を阻止したことで、島の裏切り者は巨人になる民族でありながら島の外に受け入れられた。「さんざん殺しあっておきながら、それでも一緒に居ることができるわたしたち」を知ってもらおう、ということで島に行き和平交渉をするところで物語が終わる。

 


 この物語には以下の問いが描かれていたとわたしは感じた。


問1
 虐殺できる力を持つものと友好的な関係を結べるか?


問2
 かつて虐殺を行った者たちと友好的な関係を結べるか?


問3
 差別に物理的な理由や、歴史的な理由があった場合に差別を否定することは可能か?


問4
 虐殺しないことを肯定する世界は実現可能か。

 

 上記4つの問いに、我々が今住む世界は全てYesと辛うじて答えて存在している。わたしはこの作品を読み終えて、その奇跡をしばし思った。

 

 問いに対応した答えではないが、最後にわたしの考えを。
 誰もが同じ星に住むしかない。
 だからなんとかうまくやっていくしかないのだ。
 形だけでも、表面だけでもいい。
 打算も当然のことと受け入れて。
 そうやってなんとか形を守り続けていくうちに、それなりの敬意くらいは芽生えるのではないか。
 簡単には飲み込めないような、清々しい気分とは無縁な、そんな希望だけはあるよなとわたしは思うのだ。