101. 千代田区一番一号のラビリンスの感想

千代田区一番一号のラビリンスの感想

 

 

あらすじ


映画監督の森は、天皇制と個人としての天皇の両方に興味を持ち、取材したいと思う。ちょうどフジテレビで6人のドキュメンタリー監督を集め、共通の題材で撮影する企画が立ち上がり森はそれに呼ばれる。森はその題材として憲法を提案する。担当者のチェックが甘かったため、企画は通り、憲法1条を題材に企画がスタートする。「ドキュメンタリー作家が天皇を取材してテレビで放映しようとした時、どのようなことが起こるのか、ということをそのままドキュメンタリー化する。天皇には会えても会えなくても構わない」というメタドキュメンタリー方式。


もう1人の主人公、明仁(天皇)は退位を来年に控え、気掛かりなことがあった。

皇居の中に、誰が作ったかもわからない地下通路があり、その地下が何なのかを明らかにしないまま子どもたちに皇居を受け継がせるわけにはいかないと考えていたのだ。


また、作中世界の日本ではコロナウイルス以外にも、カタシロと呼ばれる小型の人形のようなものが各地に現れる現象が起きていた。

カタシロは何もせず、近づくと消える。なんとなく不気味なものを感じて人々はカタシロを穢れとして扱っていた。

 


森は天皇とアクセスしようとし、天皇は時々お忍びで皇居の外に出ている。物語の中盤以降、森と天皇は合流し、一緒に皇居の下の通路を探索する。

 


というお話。

 


面白かった。

天皇制を巡る矛盾点、

天皇制について語る時に多くの日本人が平熱では居られない点、

日本国憲法の前文のさらに前の話、

個人としての天皇のふるまいの意図など、

天皇制や日本についての面白いテーマがどんどん出てくる。

カタシロには実態がなく、虚があるだけで周囲の歪みが見えているだけ、とか。

森が性的不能で象徴が機能しない、とか。

 


隠喩的にさまざまな解釈が可能なモチーフも散りばめられていて、深掘りした鑑賞にも耐えられるようになっている。

 


天皇制について興味がない人に天皇制について興味を持ってもらうのに、とても良い小説だと思う。

 


一方で、書こうとして書ききれなかったところがある話なのかなとも感じた。

「あなたに役割としての人生を背負わせてしまって申し訳ありません。他の人がどう振る舞うかを先読みする思考が連鎖し、あなたをただの有名な一個人として扱うことは、まだ叶いませんでした」

といったことが言いたいのかなというのがわたしの感想。